腫瘍班
骨軟部腫瘍・骨転移
骨・軟部腫瘍とは骨組織(骨や軟骨)と軟部組織(筋肉や脂肪、神経、血管)に発生する比較的まれな腫瘍です。また良性腫瘍と悪性腫瘍(肉腫と呼ばれます)がありますが、上皮性悪性腫瘍(肺がん、乳がん、大腸がんなど)とちがい診断に難渋する場合が多く、当科でも病理組織検査科(顕微鏡にて診断)や放射線科(画像診断部ならびに放射線治療部)と協力し診断・治療にあたっています。画像では特にMRIの有効性は大きいことは明らかですが、その上で組織検査を行い、正確な診断に努めています。組織検査は外来での針生検が一般的ですが、場合により、麻酔下に切開生検やCTガイド下生検を行うこともあります。いずれにせよ、画像、組織検査、臨床所見の整合性を取ってから、治療を開始します。
上皮系の癌とちがい、一般病院(=非専門病院)で安易に治療された場合、治療成績は良好といえず、県内では骨軟部腫瘍の専門病院は当院のみであり、積極的かつ迅速に受け入れて診断・治療を行っています。更に、治療に難渋する症例やセカンドオピニオンについてはがん研究会有明病院・国立がん研究センター中央病院に積極的に紹介しております。
近年、上皮系の癌に罹患する患者数が増加しており、様々な治療の進歩によりその予後は格段に延長しています。そのため、骨転移を来す患者さんも増加しております。当科でも放射線科、また原発診療科の協力のもと、骨転移を生じた患者さんのADL・QOLを維持を目的に、毎週カンファレンスを行い、放射線治療と手術による内固定、コルセットなどの外固定を併用することで適切な治療を提供できるようにしております。
また、研究面においても複数のプロジェクトが進行中です。現在、当大学臨床検査医学・第2生化学、がん研整形外科・信州大学整形外科とのコラボレーションのもと、血小板と肉腫の相互作用と、新規治療ターゲットの検索を行い、停滞した肉腫治療に風穴を開けるために日々頑張っております。
担当医師:初診 市川二郎(木曜日、金曜日) 再診 市川二郎(火曜日)
主な対象疾患
- 良性骨軟部腫瘍
良性骨腫瘍;骨軟骨腫、内軟骨腫、骨嚢腫など
良性軟部腫瘍;脂肪腫、神経鞘腫、血管腫など
治療として手術が一般的であり、通常は辺縁切除のみとなります。その際に周囲の正常な神経、筋肉などを極力温存することを心がけています。
また、腫瘍の種類や発生場所によっては経過観察する場合もあります。 - 悪性骨軟部腫瘍
悪性骨腫瘍;骨肉腫、Ewing肉腫、軟骨肉腫など 一
般に骨肉腫やEwing肉腫では術前・術後の化学療法が必須です。それに手術を組み合わせる事で適切な治療となります。年齢によっては、小児科と共同して治療に当たります。
大腿骨骨肉腫(左)に対して、術前化学療法を施行し、広範切除と人工関節置換を施行した(右)
悪性軟部腫瘍;脂肪肉腫、未分化多形性肉腫、線維肉腫など
腫瘍のみを摘出すると再発、転移する可能性が高くなります。そのため、広範切除(腫瘍に正常な組織を付けて切除する方法)を行います。この際に皮膚・軟部組織の欠損を生じることがあり、形成外科の協力のもと再建を行います。
また、必要に応じて術前・術後の化学療法、放射線療法を組み合せる事で、再発、転移を少なくするようにしております。
下腿悪性軟部腫瘍に対して広範切除施行後(左)、皮膚欠損に対して遊離広背筋皮弁と分層植皮を施行した(中央)。右は術後1年での皮膚の状態
また、血管・神経などに腫瘍が接している症例でも、がん研で開発されたIn Situ Preparation(ISP)法を用いて、安全に患肢温存手術を行っております。
大腿悪性軟部腫瘍に対して広範切除を施行(左)。その際に近接している大腿動脈をISPにより温存した(右)。
- 転移性骨腫瘍
上皮系の腫瘍の中でも、特に肺癌、乳癌、前立腺癌などでの四肢・脊椎を含めた骨転移はしばしば見られます。患者さんの全身状態、治療内容などの情報を元にして、適切な治療の機会を与えられるように心がけています。脊椎では低侵襲手術が当たり前のように行われており、また、四肢に関しても髄内釘による固定術を行い、ADL、QOLともに維持できるように治療に当たっております。
上腕骨転移性骨腫瘍(左)に対して、予防的に髄内釘による観血的整復を施行。その後、放射線治療と化学療法を施行し、骨の再生が認められる(右)。